ですがまぁ、子供心に愛情が不足していたんです。寂しかったんです。
昔国語の授業か何かで、先生が河童の話をしました。
「河童の子供は生まれる直前に本当に生まれたいかどうかの意思確認があるらしい。
そこで「生まれたくない」と言えば、生まれずに消えていくそうだ」
とかそんな感じ。芥川龍之介の「河童」で読んだ話だったと思う。
私はひねくれた奴だったので、
「人間にも意思確認があったらよかったのに!
そうしたら私は「生まれたくない」って言っただろうに!」
と、思いました。そしてそれは22歳くらいまでそんな風に思っていました。
でもまぁ、最近思うんです。人間にもきっと意思確認があるんだと。
子供は親を選べない。だからこそ生まれる直前、
「君はこんな家に生まれることになるよ。それでも生まれたいかい?」
そう聞かれるんでしょう。
「うん、生まれたい。絶対幸せになってやるんだ」
そう言って、私は生まれてきたのでしょう。
だけど生まれて物心がついたらそんなことはすっかり忘れてて、
「生んで欲しくて生まれたんじゃない」なんて親に吐いてる。
嗚呼、なんてバカな私。
もっと昔、私が一匹の精子だったころはただただ無我夢中で走ってただけでした。
走るのは私が一番早かった。体も一番強かった。ライバルにもタッチの差で勝った。
とりあえず卵子に飛び込んでは見たものの、どうしていいかわからなかったと思う。
もっと昔、私が一つの卵子だったときは、
待てども待てども待ち人来たらずな先輩方が去っていくのを見て、
「私もああなっちゃうのかなぁ・・・」なんて思っていたはず。
でもいざ自分の番、向こうから無我夢中で走ってくる奴らがいるではないか。
私ってば超ラッキー!!なんて思っていたはず。
今世の中にいる人は、誰しもが超☆強運な卵子と、超☆強靭な精子によって構成されているんだ。
そんな中では誰しもが一番にはなれないのであるよ。しょうがないことです。
でもまあ、自分が望んで生まれて生まれてきたってことだけは覚えていたいな。